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和歌山地方裁判所 昭和29年(ワ)77号 判決

原告 富士物産株式会社

右代表者 青木誠次

右代理人弁護士 森岡繁次

被告 由良陛

右代理人弁護士 秋月集一

主文

被告は、原告に対し、金一、九七一、二一四円、及びこれに対する昭和二十九年三月十三日から完済まで、年六分の金員を支払わねばならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、金四〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告主張の約束手形に、被告が保証人として署名捺印したことは当事者間に争いがない。

被告は、右手形保証をした際、原告との間に、被告において手形保証人としての責任を負はない約束がなされているから、本件手形保証は、通謀虚偽表示として無効のものであると抗争するけれども、右主張に副う被告本人尋問の結果は、証人犬丸次一、堅田重雄、及び南出泰助の証言に照してたやすく信用することができず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。却つて、前掲各証人の証言を綜合すると、本件手形振出前に訴外会社が振出してあつた約束手形三通(金額合計金一、九七一、二一四円)が不渡りとなつたので、原告が書換手形の振出しを求めた結果、本件手形が振出された(この事実は当事者間に争いがない。)ものであるところ、その際、交渉に当つた原告社員南出泰助が、被告に対し、訴外会社代表取締役由良浅次郎の個人保証を要求したが拒絶されたので、被告の個人保証を求めた結果、被告がこれを承諾して本件手形に署名捺印したこと、右南出は、その際被告に保証人としての責任を問わないというようなことを約束しなかつたことが認められるから、被告の通謀虚偽表示の抗弁は理由がない。

次に、被告は、原告の訴外会社に対する本件手形金債権は、訴外会社の会社更生手続において、更生債権届出期間を経過して届出がなされたことを理由として、その届出が却下されたことにより消滅したから、被告の本件手形保証債務も消滅したと主張するので考えてみる。

会社更生法第一二五条は、会社更生手続開始決定があつたときは更生裁判所の定めた期間内に、会社に対する債権をもつて更生債権として届出なければならないと規定し、右期間内に届出をしない更生債権は、更生手続においては存在しないものとして扱われ、更生計画認可決定があつたときは、会社は、届出をしない更生債権等につきその責を免がれることは、同法第二四一条に規定するところ、同条に「責を免れる」という意義を、更生債権等自体が消滅(失権)するというように解する説もなくはないけれども、その真義は、改正破産法第三六六条の一二と同様、会社がこのような更生債権について支払の責任を免がれるのみであつて、債権自体は消滅せず、いわゆる自然債権として存続することを定めたものと解すべきである。このことは、同条に「更生債権及び更生担保権につきその責を免がれ、株主の権利及び会社の財産上に存した担保権は、すべて消滅する。」と明瞭に書き分けていることからも明かなところであるのみならず、数人が各自全部の履行をする義務がある場合においてそのうちの一人について更生手続が開始されたときは、その者に対して将来行うことがある求償権を有する者(手形保証人をも含むと解する)は債権者がその債権の全部につき更生債権者としての権利の届出をしない場合―云いかえれば、更生計画認可決定があつたときには、その更生債権につき会社が免責を受けることになる場合―には、求償債権の全額につき、更生債権者としてその権利を行うことができる旨を定めた同法第一一〇条第一項の規定からも窺い知られるところである。さればこそ、同法第二四〇条第二項において、更生計画によつて、更生債権に変更(消滅をも含むと解する)が生じても、これがために保証債務は影響を受けないと規定しているのである。従つて、更生会社に対する債権の届出が、届出期間経過を理由として却下され、更生計画が認可された場合においても、会社は右債権につき免責されるだけであつて、更生債権自体は消滅せず、又、保証債務にはなんらの影響なく債権者は保証人に対し、保証債務全額の履行を求めるものといわねばならない。

これを本件について考えてみるに、東京地方裁判所において、同庁昭和二十八年(ミ)第一六号事件として訴外会社に対する会社更生手続開始決定がなされ、原告が、訴外会社に対する本件手形金債権をもつて更生債権として届出たところ、届出期間経過を理由として却下されたことは、当事者間に争いがなく、同二十九年七月二十八日同裁判所において更生計画認可決定がなされたことは、弁論の全趣旨によつて明かであるけれども、これにより被告の本件手形保証債務が消滅するいわれがないことは、前説示の理由によつて明かであるから、被告の右抗弁も理由がない。

被告は、本件保証が、訴外会社に対する更生計画認可決定において定められた同会社の支払義務と同一の割合を限度としたものであると主張するけれども、右事実を認めるに足る証拠がない。却つて証人南出泰助の証言、ならびに、被告本人尋問の結果によると、本件保証がなされた当時、訴外会社が会社更生手続開始決定を申請していた事実を、原告は勿論のこと被告本人も知らなかつたことが認められ、従つて、被告主張のような限度を定めていなかつたことが推認されるから、その余の点について判断するまでもなく、被告の右主張は採用できない。

してみると、被告は、原告に対し、手形保証人として、本件手形金一、九七一、二一四円、及び、これに対する満期以後である同二十九年三月十三日から完済まで、手形法所定年六分の利息金を支払う義務があるわけであるから、これが支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を仮執行の宣言について同法第百九十六条第一項を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 下出義明)

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